僕等が保つべき体温の最大
そこは、白だけの世界だった。

視界の全てを遮られて、どうする事もできずに圭一は身をかたくしている。両腕で結衣を抱きしめたまま。

身体に突き刺す風は、細い針のようだしそれを凌ぐだけで体力が失われていくのがわかる。

ガクガクと震える結衣を力ずくで押さえ込もうと、圭一は更に力をいれた。

それに応えるように、結衣は圭一へと目を合わせ微笑んだ。

「圭一、あったかい、ありがとう」

そうつぶやく結衣の声はとてもか細く、消え入ってしまいそうだ。

「結衣…。」

圭一はうわごとのようにつぶやく。結衣の名前を呼び続ける。

「圭一、圭一…」

結衣の声が圭一の耳の中でくっきりと大きく響く。

それは、圭一が心の中にしまい込んでしまった言葉。圭一が消し去ってしまいたかった言葉。

その言葉が今、圭一の中にくっきりと蘇る。

「圭一、ありがとう、サヨナラ」

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