僕等が保つべき体温の最大
「結衣…」

暖かい春の日差しの中で、圭一は結衣の名前を呼ぶ。

この世界の何処を探しても結衣を見つける事が出来ないまま。

「結衣…」

その名前を呼ぶことだけが、今の圭一にとっては救いだ。

名前を呼んだ瞬間に蘇る結衣の笑顔に会いたくて、圭一は何度も呼び掛ける。

「結衣…」

それだけで満たされる。からっぽになった身体のなかにほんの一瞬体温がもどる。

でもそれは、いつも一瞬だ。

”圭一、ありがとう、サヨナラ”

その言葉が全てうばいさる。

”サヨナラ”

結衣が残した最後の言葉。

自分は、なんと答えたのか?それすらも思いだせない。

ただ、からっぽの世界でなにも出来ないまま結衣の名前を呼び続ける。

「結衣…。結衣」

それしかできない。結衣を失ってしまった自分は、結衣の名前を呼び続ける事しかできない。

やがて、長い夢は覚める。

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