僕等が保つべき体温の最大
四角い部屋はその輪郭をハッキリ映しだす。

圭一はその部屋に立って、それが今であることを確信した。

どれぐらいそうしていたのか、身体が固まってしまいまるで動かない。

”動かないならそのままで”

圭一にしてみればどうでもよい事なような気がした。

「波多野君…」

沈黙を溶かすように菜緒がしゃべりだす。

「結衣さんに会ったの?」

果たして自分が何を言われたのか?一瞬理解出来なかった。

”ああ、夢の事か?”

自分が見た夢をなぜ菜緒が知っているのかも不思議だったが、それもどうでもよかった。

夢の中で結衣は…。

「結衣さんは何て?」

菜緒に促されて蘇る。結衣の最後の言葉。

「サヨナラ…」

「え?」

「サヨナラって…言ってた…」

それは自分が心の中に隠してしまった過去だった。

”結衣は、あの事故で死んだ”

圭一は、改めてその現実の上に立つ。

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