群青ノ春
その日の夜はどうやって家までたどり着いたのか、全く思い出せなかった。



陽登の店を出てからの事は何にも覚えて無かった。




空腹のままアルコールを次々に流し込んだせいもあるが、
アルコール抜きにしても結構な割合で舞い上がっていたような気がする。




朝起きると『これから先、一生お酒は飲みませんから許して下さい』と何の神様だか良く分からないけど取り合えず懺悔録してしまう程の二日酔いに襲われた。




救いなのは、勤め先のデザイン事務所がフレックス制で好きな時間に出勤出来る事だった。





しかし目覚めた時間はすでに10時を過ぎていて、のんびり二日酔いの苦しみが解けるのを待つ余裕は無かった。





鈍りのようにずしりと重い体を精一杯動かして、短めに熱めのシャワーを浴びた。



昨日の回想が湯気と一緒になって立ち上ってきたが、そんな時間は無かった事を思い出して慌ててシャワーで掻き消した。




シャワーが済むと少し怠さが薄れたので、その勢いで止まる事無く身支度をした。



干しっぱなしの洗濯物から適当にTシャツを取り、
引き出しの一番上の短パンを掃き、
面倒だったから昨日と同じバッグをそのまま取って、

家を出た。




8階建てのマンションの3階に住んでいるので、下りるなら階段を使った方が早い。





ウェッジソールをカコンカコン響かせながら下りてる途中で気づいた。




「あー!もお、携帯!」


奈緒は携帯を忘れた事を八つ当たりするように、今下ってきた階段をガツンガツン鳴らしながら駆け上がった。





携帯はベッドに置きっぱなしで、
不在着信のランプがチカチカ点滅していた。



慌てて確認したが、登録してない番号だったので、気に留めず急いで職場へ向かった。
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