セレネ
「四月八日朝、東新宿署管内で男性の刺殺体が発見された。

東新宿署に特別捜査本部を設置することになった。広瀬警部と河辺巡査部長は捜査本部に合流するように。」

小島管理官の声が室内に響いた。

警視庁捜査一課管理官小島高志警視正。

出世コースから外れ、捜査一課管理官に着任して3ヶ月、

河辺を転属させたのも起死回生を狙った判断であった。

キャリア組の小島にとって事件解決など二の次、まず自分の出世の道を切り開くことが最重要課題である。

マスコミに注目される幸太郎を手の内に入れることも、

女性犯罪心理捜査官の広瀬を使うことも出世の為であった。

「押忍、行って参ります。」

幸太郎が気合十分に言うと

「その『押忍』はやめてくれない?」

と呆れ顔で恵理が言った。

それを見ていた小島が二人の所へ来て、

「コンビは違う感性があってこそ成り立つ、いいコンビの誕生だな。」

と笑いながら言った。

恵理はこの小島の笑いを見るといつも吐き気がするのだった。



四月八日午前十時。新宿区新宿2丁目のスナック「シャングリラ」で男性の刺殺体が発見された。

スナックにおしぼり回収に来た業者が、ソファに横たわる男性の刺殺体を発見。

男性は室井茂晴三十五歳この店の店長であった。

鑑識によると死亡推定時刻は四月八日午前二時から四時の間、

背後から刃物で刺された事による出血死であった。

傷は五ヶ所心臓まで到達する深さの傷もあった。凶器は発見されなかった。

店は所謂男性相手の店で、半年前に開店し、室井には『彼氏』がいたことがわかっている。

その『彼氏』は宮川栄治三十五歳で、中野にある美容院に勤める美容師であった。

宮川はその日の朝から行方不明になっている。

「ということです。なんか広瀬警部の出る幕無さそうですね。」

そう言うと幸太郎は手帳を閉じた。

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