セレネ
恵理は犯行現場のスナックで目を瞑っていた。

恵理がプロファイリングをする時はいつもそうであった。

資料の内容はすでに頭に入っている。犯行現場の光景とその匂いを感じながら、犯人を思い描くのだった。

「犯人は男性ですね。結構大柄な奴でしょうね。」

幸太郎はスナックのカウンター席に座って言った。しかし、恵理は全く反応しなかった。

「ここから傷ついた宮川を運んだとすればかなりの力ですね。

目撃者はなし。いくら深夜でもこの辺は人がいなくなることはないですからね。

隠して運んだとすれば車ですかね?」

幸太郎の声は全く恵理には届いていなかった。

「でも、なんで宮川だけ運んだんだ?」

秋月が幸太郎に言った。秋月がこの二人の案内役を買って出たのはもちろん、恵理目当てだった。

「室井は背後から殺せたけど、宮川とはそうはいかなかったとか、

宮川の体に証拠が残るのを恐れて運んだんじゃないかな?」

幸太郎は秋月相手に身振りを示して言った。

「おっさすがは期待のホープだね。でも、それほどの争いしていたら近くの店で気づくんじゃない?」

秋月の言う通り、このスナックは雑居ビルの一階で、

一階にはこの店の他に三店舗あり、犯行時間にはまだ人がいたのだ。

もちろん誰も悲鳴や物音に気づいた者はいない。

ビルの目の前にはホストクラブもあり、犯行時間はまだ営業していた。

「二人を物音立てずに誰にも気づかせないで殺すなんてできるのかな?ゲイでも男は男だぜ。」

秋月の言う通り、全く目撃者なしというところが捜査を行き詰らせていた。

犯行時間、その他の三店舗のうち、一店舗では三人の客と二人の店員。一店舗では一人の客と一人の店員。

一店舗では店員二人のみ。九人このフロアにいたことになる。しかし、誰一人争う音は聞いていない。


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