見えないお姫さま



「どうやって声を掛けたら、ヴァンは驚かない?」

「いいですよ、そんなこと気にしなくて」

「駄目よ。……そうじゃなくて、私が嫌なの」

「……そうですよね。そうだなぁ」

ヴァンは空を仰いだ。

私もつられて見れば、薄く月が出ていた。

「わかりました!」

「何?」

「合図を決めればいいんですよ」

「合図?」

「例えばぁ、俺の袖を引っ張るとか」


袖を引っ張る、か。

試しに引っ張ってみよう。

どんな反応をするかしら。


「おっ!?」

袖を引っ張ればそんな反応。

「驚いてるじゃない!」

「いやっ!今のは不意打ちで!」

「不意打ちに驚かないようにって合図でしょ!?」

「……ごめんなさい」


言い過ぎたかしら。

ヴァンはシュンと肩をすぼめた。


「ぷっ」

そんな姿が可笑しくて吹き出してしまった。

「あははははっ」

「え?」

私はヴァンから見えないことをいいことに、指を差して笑った。

「あははははっ」

「笑いすぎです…」

「だって!だって!うー、お腹痛い!」





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