見えないお姫さま


「アイリスっていう名前の花があるの知ってるか?」


ヴァンは作業を進めながら、ポツリと呟く様に言った。


「アイリス?知らないわ。私の名前に似てるわね」

「だろ?だからアイリスの花壇作ろうと思って」

「え?」

「これ、今植えてんのアイリスの球根」

「あ、そうなの?」

「アイリが育てんだぞ?」


ヴァンは一旦手を止めて、意地悪な笑顔を私に向けた。


何だろう!

この憎らしいけどキュンとする笑顔は!


「わ、私が!?」

「そ。毎日水あげんだぞ」


花を育てる事なんてしたことが無い。

私が花を育てられるかしら?

ワクワクしてきた。

やった事が無い事。

普段ならやりたいと言ってもやらせてくれない事。


それをヴァンがいればやらせてくれる。

私の世界を広げてくれる。


やっぱりヴァンに話し掛けて良かった。

友達になれて良かった。



「ありがとう!」

「へ?」


意地悪顔のヴァンは私のお礼を聞くと、予想外の事だったのかマヌケな声を出した。



「ヴァン!ありがとう!」

「うわっ!!」


ありがとうって言葉だけじゃ物足りなくて、私はヴァンに抱き付いた。

案の定、ヴァンはひっくり返った。


でも嬉しいからいいの!



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