同級生
「ごめんな。俺、居酒屋しか知らないんだ」

少し罰の悪そうな表情で、傘を畳む彼だけど…

「ううん。なかなか来れないけど、好きだから大丈夫」

私の言葉に反応するように、彼の手はピタッと動きを止めた。

「…どうしたの?」

「い、いや、なんでもない」

そう言いながら店に入っていく広い背中。



………変な事言ったかな?



素朴な疑問を飲み込み、広い背中を追いかけた。


「いらっしゃい!」

威勢の良い元気な声と、騒がしく賑わっている店内。

テーブル席に案内され、彼の向かいに座った。

カウンター席は満席で、残り2つのテーブル席には“予約席”の札。

「凄い混んでるね」

「安くて美味いからいつも混んでるんだ。俺運転するから好きなの飲んで良いよ」

そう言いながらタバコを取り出す彼の左手。

さっきは直視出来なかった薬指に、思わず視線が行ってしまう。



………指輪してない。
仕事で傷付くの嫌だから外してるのかな?
私と一緒だから外してるのかな?
ただ、着けてないだけなのかな?

彼女いるのかな?



電話である程度の事は聞いてる。

けど、彼女の存在や携帯小説の事。

聞きたい事はたくさんあるのに…

肝心な事は何も聞いてない。


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