同級生
「…キスしたい」

小さくこぼれ落ちた本音に、自分で少し驚いた。

「…良いって言う訳無いじゃん」

「どうしても?」

「…みんな戻って来るよ?」

「後で部屋行って良いか?」

「…藍子居るよ」

「じゃあ、後で俺の部屋来いよ。新田追い出すから…」

「…強制送還されるよ?」

「すげぇ冷静なんだな…」

「…そんな事無いよ」

うつむきながら小さく言われ、和華の頬に手を伸ばした。

熱過ぎる程熱い頬と、今にも涙がこぼれ落ちそうな瞳…

「…和華」

小さく囁くように言うと、和華はゆっくりと顔を上げ、小さく呟くように告げてきた。

「…帰って来たよ」

「え?マジかよ…」

ため息混じりに立ち上がり、潤んだ瞳をしている和華に告げた。

「…部屋で待ってるな」

急いでバスを降りた後、自分のバスに戻り、大きくため息を吐いた。


あんなに遠いと思っていた和華が…

あんなに遠いと思っていた唇が…

もうすぐ自分のモノになるかもしれない。


世知辛過ぎる現実は、ほんの小さな勇気と、衝動的な勢い、思い切った行動次第で何とでもなる事をはじめて知った気がした。


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