年上。
入ってきたのは、女性教師だった。

年齢は、ざっと見て二十五歳前後。そして彼女の容姿はきっと、美しい、という言葉が似合うだろう。

すらっと伸びた背筋に、引き締まったウエスト。整った眼鼻に、美しい黒髪。始業式の為に着てきたであろう、そのスーツがよく似合っている。

俺は言葉もなく、その女性の姿を目で追っていた。

そうして、彼女が教卓の前に立つ。

生徒達は既に自分の席についている。

その様子を見まわした彼女は、その唇を開いた。

「皆さん、始めまして。前任の庄司先生に代わって、君たちの担任になった田代裕子と言います。今年から、この学校に赴任して、この学校の事がよく分からないのですが、これからどうぞよろしくお願いします」

田代裕子、というのかあの女性教師は。というよりも、今年からだったのか。そういえば、男子が始業式の時、男子が騒がしかったのを覚えている。

俺は、柄にもなくその名前を一度で覚えてしまった。今まで、人の名前を一度で覚えた事など、そうそうないというのに。

担当教科は、どうやら数学らしい。

とある生徒が、「先生、僕と恋の数式を解いてみませんか?」などと言って、茶化していたがそれを易々と受け流す。

若いが、生徒のあしらい方には大分慣れているようだ。教師なら、この程度はなれて置かないといけないのだが。

まぁ、俺はこの教師が大分県教育委員会で発覚したあの不祥事のように、裏金を使っていないことを信じたい。

あれは愚かしい事件だった。教育者としての、覚悟がどうやら足りないらしい。もう一度小学生からやり直した方がいいみたいだ。

さて、そろそろ飽きてきたな。俺は読書に戻るとしよう。

そうして、手元の本に挟んでおいた栞から読みなおそうとする。が、その前に教師から予想はしていたが、俺にとっては余り好ましくない事を提案された。

「それじゃあ、一人ずつ自己紹介をして貰おうかな。私は、君たちの事を全く知らないからね」
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