ちぇんじ☆
 時計の針が十二時四十五分を指している。
 十五分前に起こされたカズちゃんはまだ少し眠そうな表情で目をこすったり欠伸をしたり。
 私は緊張のためか喉がカラカラに渇く。
 喉の渇きを感じる度にお茶を飲んで、おトイレに行っての繰り返しだ。

 それでも時間は容赦なく過ぎていく……私の覚悟が揺るぎそうな間にも時間は過ぎ、時刻はいよいよ午前一時を迎えようとしていた。

「――そろそろじゃな」

 時計をチラっと見て、お祖父ちゃんが私たちへの合図であるかのように語りかけてくる。
 お祖父ちゃんからの問いかけに無言のまま頷き、ゆっくりと立ち上がる。
 カズちゃんに視線を移す。
 ようやく眠気も収まってきたのだろう。
 真剣な面持ちで私の方を見つめている。

 私と視線が合うと、カズちゃんも小さく一つ頷き、ゆっくりと立ち上がった。

「じゃあ――行こうか?」

 もう一度、最後にもう一度意思を確認するようにカズちゃんを誘う。
 その言葉はまだ覚悟のでききっていない自分の意思を後押しする言葉でもあったのだけど――。

「――うん」

 返事をしながら私の横につき、そっと手を握ってくるカズちゃん。
 きっと……不安で何かに掴まりたい気持ちなのだろう。
 そう感じながらカズちゃんの手をギュっと握り返す。

「――じゃあ、行ってくるね」

 お祖父ちゃんに告げる。
 これから『セックス』しに行くことを誰かに告げるのは……本当に妙な気分だ。

「頑張るんじゃぞ――」

 お祖父ちゃんの励ましの言葉。
 これにもまた奇妙な、くすぐったいような感覚を覚える。
 初めてではあるが――ただ『セックス』をするだけのために、励まし、励まされ。

――こんな『奇妙な経験』をしたことのある人なんて滅多にいないだろうな。

 そう考えると、なんだか可笑しな気持ちになった。
 僅かに緊張がほぐれ、気持ちに余裕が生まれる。
 これから――お姉さんとしてカズちゃんをリードしなくてはいけないのだ。
 緊張してばかりもいられない。

「さあ、行くよ」

 優しく、穏やかにカズちゃんに話しかけ、そっと手を引く――。

――こうして私たちの『入れ替わり』が始まった。
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