ちぇんじ☆
「どうして――マリちゃんがそんな『お願い』をするんだい?」

 これほど立ち入った『お願い』をしたにも関わらず、そう質問してくるカズちゃんの声はあくまでも穏やかで、一点の叱責の意図も込められてはいないようだった。
 そんなカズちゃんの穏やかさに、私は素直に『お願い』をする意図を話す。

「あのね――『夢』見たの。子供の隼人くんが――カズちゃんの背中を追いかける『夢』」

 そう、今朝見た『夢』だ。
 あの小さな子供は――もちろん隼人くんで。
 追いかけていた後ろ姿だけの人――あれは絶対にカズちゃんだ。
 あの『夢』の風景はさっきカズちゃんから聞いた、『カズちゃんが隼人くんの霊力を封じた』その後の光景だったのだろう。
 せっかく助けてもらったのにお礼しか言えない隼人くんのもどかしかった記憶が――あんな夢を見せたのだと思う。

「隼人くん、きっと薄々カズちゃんが『自分のお父さん』だっていうことに気が付いてるの。
それで――きっと、お父さんのことが――恋しいんだと思うの。
だから、だからね。ちゃんと名乗り出てあげて欲しいの――」

 そこまで言って、これ以上は説得の言葉も出ずに私は俯いてしまった。

ポンっ――。

 そんな俯いた私の肩を――カズちゃんが優しく叩いた。
 顔を上げると、カズちゃんが優しい瞳で微笑んでいる。

「分かったよ。『約束』する。 ――でもよ、かすみさんと相談した後になるぜ?」

 私はカズちゃんの返事が嬉しくて――何度も何度も大きく頷く。
 これで隼人くんとカズちゃんはちゃんとした父子になれる。
 これでカズちゃんの中に私との『約束』の記憶が残る。

――これで……私が消える『意義』がまた一つ生まれる。
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