バトンクッキー
床やロッカーはピカピカ、雑然と倒されていた金属バットはきれいに揃えられ、なにより部室特有の雑巾の腐ったような臭いは一掃されて無臭。
水原は部室の小さな窓のところで、ドライバーでアルミサッシの枠にこびりついている泥をほじくり出していた。
「あっ、すいません。もう少しで終ります」
水原はゴム手袋を一度外してから額の汗を拭った。
「ああ、ごくろうさん」
そんな言葉しか出てこなくて、他の部員は水原を奇異な目で見詰める。
さらに注視すると、ロッカーの中に放り込んである野球道具類が部員全員分整理整頓され、棚から舌のようにベロンと出ていたタオルもきちんと折りたたまれて雑巾としての再出発を待っている。