バトンクッキー


「平衡感覚や視力には自信があります」

 水原は得意気に話す。


 平衡感覚や視力がすぐれているのは間違いないだろうが、集中力や我慢強さもないと90メートルの距離を真っ直ぐ引けるもんじゃない。


「どうしていま白線を引こうと思ったんだ?」

 おれはひとまず褒めることを抑えて尋ねた。


「白線の粉が石灰だったらやるつもりはなかったんですけど、袋に炭酸カルシウムと書いてあったから体には害がないなと思って……」


「粉の成分のことを聞いてるんじゃなくて、なぜ昼休みに白線を引いたのかを訊いてるんだ」

 おれのこめかみの血管がピクッと動いた気がした。

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