バトンクッキー


「知ってます。3番でショート、そしてキャプテンの北島士郎さんですよね」

 野球部のことは知っている、ということをアピールしたいのか、訊いてもいないのに水原はおれの名前をフルネームで答える。


「おれも有名人なんだな」

 冗談を言うと、水原は無表情。


 せめて作り笑いでもして気を使えよ、と言いたくなる。


 おれは古いラーメン屋にあるようなビニール製で座面が破け、スポンジがはみ出している椅子に腰を下ろした。


「どこでもいいから座って待ってろ」


「は、はい」

 と返事したが、水原は部室に入ってこようとしない。

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