バトンクッキー


「どうした?」


「あのぅ~」


「なんだ?」


「に、臭いが……」


「臭い?」

 おれは水原に指摘され、自分の脇の下などクンクン嗅いだ。


「そこまで臭いが届いているとは思えんが」


「い、いえ、北島さんの臭いじゃなくて部室の臭いが……」

 そこまで言って水原は口を閉ざす。


 部室はスキー板でも仕舞うのが難しい細いアルミ製のロッカーが並び、くの字に曲がって使い物にならないやつが多数。

 ザラッとした表面の角材と板を打ち付けただけの粗末な棚には野球道具や過去の試合を記録したスコアブックの資料、異臭の原因の黄ばんだタオルが雑然と放り込まれている。

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