愛の雫
玄関のドアを開けて家の中に入ると、リビングから陽子さんが顔を覗かせた。


「おかえりなさい……」


陽子さんはあたしの様子を窺うように歩み寄って来ると、無理矢理貼り付けたような笑顔を見せた。


「夕飯作ってるけど……」


その言葉にため息を漏らし、ローファーを脱いで階段を上がる。


「あの、希咲ちゃん……」


「食べて来たからいらない」


あたしは、背中を向けたまま後ろから飛んで来た言葉を一蹴(イッシュウ)して、自分の部屋に入った。


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