愛の雫
「希咲、待てよ」


ドアに一番近い場所に座っていた泰人に、手首を掴まれてしまった。


同時にあたしの体がビクリと跳ねたのを、彼は見逃さなかったみたい。


泰人はニヤリと笑った後、ゆっくりと立ち上がった。


「久しぶりだな」


「は、離して……」


目の前にいる泰人を直視出来なくて、視線を逸らしたまま言ったけど…


その声は今にも消え入りそうなくらいに小さくて、あたしがこの状況に萎縮(イシュク)してしまっている事が一目瞭然だった。


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