愛の雫
咄嗟だったあたしが力いっぱい振り上げた両腕は、絵里香の顔に掠る程度に当たった。


「……っ!」


彼女の顔を歪んだのを見ながら必死に足をばたつかせるけど、さすがに泰人の力には敵わない。


「放してっ!!」


同じ言葉を何度も叫び続けながら僅かに身を捩るのが、今のあたしには精一杯だった。


だけど…


どんなに叫んでも、ここはカラオケボックス。


防音になっている部屋の中にいる人間の声なんて、マイクを通さなければ外まで聞こえるハズも無かった。


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