愛の雫
充分だよ……


声に出すと泣いてしまいそうで、その言葉を喉元で飲み込んだ。


その代わりに出来るだけの笑みを凪兄に向けて、またマグカップに口を付けた。


口腔に広がっていた鉄の味が、カラメルミルクの優しい甘さに消されていく。


口の中に出来た傷が痛むけど、凪兄のくれた温もりがさっきまでの行為を忘れさせてくれそうな気がして…


少しずつカラメルミルクを飲み続けていた。


その間、傍にいてくれた早苗と朋子の事はもちろん、凪兄の顔も見る事が出来なかった。


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