愛の雫
「……っ!あ、あたしっ……」


「希咲!」


パニックに陥っていたあたしの耳元で、パチンッと響いた。


その音と同時に両頬に走った痛みは大した事は無かったけど、ほんの少しの落ち着きを取り戻すには充分な痛さだった。


「落ち着け。陽子さんも赤ちゃんも、絶対に大丈夫だから」


「でもっ……」


「大丈夫、俺が一緒にいる。希咲が一人にならないように、ずっと傍にいるから」


凪兄は優しく諭すように言った後、あたしの頬を伝っていた涙をそっと拭った。


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