愛の雫
二人きりになった病室は、さっきよりも静まり返っていた。


今の今まで右手に感じていた温もりが、少しずつ無くなっていく。


そして、少し前まで凪兄の熱に守られていた事が嘘みたいに、あっという間に指先まで冷たくなってしまった。


「希咲ちゃん……」


その声に、泳がせていた視線をベッドに向ける。


「よかったら、ここに座ってくれないかな……?」


一瞬だけ躊躇したけど、弱々しく話す陽子さんに従う事にして、ベッド脇の椅子にゆっくりと腰掛けた。


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