愛の雫
「心の準備は出来た?」


振り返ったあたしに訊いた梶原さんに、首を僅かに縦に振る。


「じゃあ、こっちにいらっしゃい」


優しく促されて、足を一歩踏み出した。


ゆっくりと保育器の前に行くと、梶原さんが左側の穴を指差した。


「ここから手を入れて、そっと触ってあげてね」


「はい……」


震えそうな声で小さく返事をして、言われた通りに保育器の穴にそっと左手の指先を入れる。


保育器の中に手首まで入った時、そのまま動きを止めた。


< 662 / 830 >

この作品をシェア

pagetop