愛の雫
「どうしよっかなぁ……」


ポソッと呟いた言葉は冷たい空気に包まれて消えるだけで、肝心の解決策は一向に浮かんで来ない。


寒さでジンジンと痛む耳のせいで、雑踏が欝陶しくて堪らない。


ため息をつきながら立ち止まって、目の前に見えた駅から逃げ出すように踵を返した。


その瞬間…


「希咲?」


聞き覚えのある声に、名前を呼ばれた。


「凪兄(ナギニイ)……」


思わず振り返ってしまったあたしは、反射的に彼の名前を呟いていた。


< 8 / 830 >

この作品をシェア

pagetop