わたしの、センセ
―悠真side―

午後四時半にテニス部の練習が終わる

僕は一年生のコート整備を見届け、コートから生徒が全員出るのを確認してから、一番最後にコートを後にした

汗でジャージが濡れて気持ちが悪い

部活の顧問であって、コーチではないけど……つい、テニスをしている生徒たちを見ると気持ちが高ぶってしまう

真剣に練習をしている子たちを見ていると、もっと上手になってもらいたくて、僕も白熱してしまう

僕も高校生の頃は、少しでも上手になりたい

もっと試合で余裕に勝てるようになりたい…なんて思ってた

勝つ喜びを知ってしまうと、当時に負ける恐怖と勝ち続ける重圧に、練習しても練習しても不安に苛まれるようになる

試合が近づくたびに寝不足になり、プレッシャーで食欲不振になる

そこまでしてテニスを続ける意味はあったのか?

…なんて、よく言われるけど、あのときはテニスが楽しかった

試合で強敵に『勝つ』ことが、何よりも自分の自信に繋がっていた

真剣にテニスに向き合っている子たちを見ると、あの頃の自分と重なってしまう

「嫌な思い出を最後に、テニスを辞めたのに…な。またテニスの面白さにどっぷりとハマってるよ」

立て続けに足の怪我をして、テニスはもうしないって心に誓ってたのに

教師になって、またラケットを握ってる

心にたてた誓いはたった四年で、破ってしまった

僕の人生なんて、そんなもんかな?

僕は、もう一度コートと倉庫に生徒が居ないことを確認してから、教師の更衣室に向かった

スーツの上にリュックを背負うと、バイクのヘルメットを小脇に抱えた

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