わたしの、センセ
僕は、とりあえず一度テニスコートに行って、部活の子たちに、諸事情があって部活には参加できない旨を伝えてから、さくらの捜索を開始した

…と、言っても心当たりは一つしかない

さくらが家を飛び出して、隠れる場所と言ったら……

「やっぱりここに居た」

僕は2-Cの教室を覗くなり、隅のほうで丸くなっているさくらを発見した

「センセ」

さくらが顔をあげると、ぎこちない笑みを見せてきた

頬が少し赤い

熱が少し、高くなっているみたいだ

「家を飛び出して、どうしたの?」

僕は、肩の震えているさくらに、僕の上着をかけてあげる

さくらは、僕の上着の襟をぎゅっと掴むと、さらに身体を小さく丸めた

「センセ、情報…早すぎ」

さくらが、目からぽろっと涙をこぼしながら呟いた

「さくらの執事が学校に連絡を入れたみたいだよ。僕は、飯野先生から聞いたんだけどね」

「家に帰ったら、婚約破棄したはずの道隆さんが居たの。昨日からずっと、わたしの家に居たみたいで。わたしの部屋に勝手に入って、花を飾ったり、プレゼントを置いたり……わたしの部屋を踏み荒らしてた。それが嫌で、気持ち悪くて…道隆さんがまだ入ったことのない部屋に、わたしの新しい部屋を作るように言って、家を飛び出したの」

さくらが顔を伏せると、鼻を啜った

泣いてる

ついさっきまで幸せそうに微笑んでいたさくらが、今は傷つき泣いている

僕はさくらの肩を抱き寄せると、コツンと額と額をくっつけた

熱い額に、さくらの体温が急激にあがっているとわかる

「それに…婚約破棄は表面上なだけで、道隆さんには別れるつもりはないみたい。センセと別れないと、センセを破滅させるって……」

さくらが小さな声で、僕に教えてくれた

「破滅ね」

僕は呟くと、くすっと笑った

さくらが僕の腕を掴むと、泣きはらした目で僕を見つめてきた
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