わたしの、センセ
本当は「はい、そうです」とか言うべきなんだろうけど…わたしにはムリ

絶対に言えない

初対面の人を前にすると、極度に緊張してしまって、何も言えなくなるの

身体もカチコチに固まってしまって、動けなくて

どうしていいか、わからない

ただただその人が去るまで、ここから一歩の動けない

まるで金縛りにあったみたいに、壁と一体化して立っていた

「僕は松浦です。明日から、このクラスの担任をします」

松浦先生が軽くお辞儀をして、爽やかにほほ笑んだ

わたしは、激しく頭を上下に振った

どうしよう

なんて答えればいいんだろう

ううん、どうしてここに先生と二人きりなんだろう

わたし、なんで教室に来ちゃったんだろう

なんで先生が教室にいるんだろう

パパは? パパと話をしてるんじゃなかったの?

わたしの頭の中は、もうパニック状態だった

松浦先生から視線を外して、窓を見たり、天井を見上げたり、綺麗に並んでる机に目を落としたり

早く、どっかに行って!

心の中で、松浦先生が教室からいなくなることを祈った

「明日、葉月さんに会えるのを楽しみにしているよ。お父さんなら、もう帰ったよ。じゃあ、また明日」

松浦先生がわたしの心を読んだかのように、優しい口調で言ってくれると、教卓側のドアから廊下に出ていった

どんどんと足音が遠ざかっていく

「び…びっくりしたぁ」

わたしは、胸に手をあてて、ずるずると姿勢を低くする

ロングのスカートが床につくのも気にせずに、身体を小さくすると、膝をかかえて、火照っていく身体に気だるさを感じた

もう…駄目だっ

『じゃあ、また明日』

松浦先生の低くて優しい声が脳内で蘇った

先生、明日は無理です

学校に行けませんっ


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