わたしの、センセ
わたしはもう一度写真に目を落とした

「さくらは知らないだろうけど、君の大好きなセンセはね……この写真の女性と同棲してるんだ」

え? だって…センセは別れたって言ってた

遠距離恋愛の期間が長すぎて、心が離れたってわたしに言ってくれた

同棲してるなんて、そんな…まさかっ!

「あらら、知らなかったの?」

道隆さんが嬉しそうに顔をゆがませる

すごく気味が悪い笑みだった

「さくらは純粋で可愛いお嬢様だから…騙されちゃったんだね。可哀想に。俺だったら、そんな風にさくらを騙したりしないのに」

違う、ちがう

センセはそんなことしない

正直に話してくれてた

わたしを愛してるって言ってくれてた

「止めて! おろしてっ」

わたしはシートベルトを外すと、走ってる車から降りようとした

「ちょっと、さくら、死ぬ気?」

「こんな茶番に付き合いたくない」

道隆さんがわたしの手を掴むと、路肩に車を停車させる

暴れるわたしの肩を掴んで、抑え込むと、無理やりわたしの口を奪ってきた

「や…やめて」

わたしは道隆さんの頬を叩いた

「茶番かどうか…確かめれば?」

「え?」

道隆さんがくいっと顎で、斜め前に見える古いアパートにさした

「203号室。そこがさくらの大好きな先生の部屋だよ」

「どうしてそこまで知ってるの?」

「調べたから。さくらを横取りするなんて、俺が許すわけないだろ」

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