わたしの、センセ
「さくら、何をしている! 式の前に親族の紹介があると何度も…言って、あ…る」

さくらの父親・謙蔵がドアを壊さんばかりの勢いで飛び込んでくる

やっと来たか

おせえんだよ、来るのが

娘のいない室内に気づき、かわりに俺がいるという光景に、驚きの眼で謙蔵が受け入れていた

必死に現状把握に努めているのだろう

娘から結婚を決意した

だから逃げられないとでも思ったのか?

おめでたいヤツだ

「小山内 勇人」

俺の姿を見て、謙蔵がぼそっと呟いた

「呼び捨てかよ」

俺はじろっと謙蔵を睨んでやる

「あ…いや、小山内君がどうしてここに?」

慌てて敬称をつけると、謙蔵が静かに控室のドアを閉めた

「そういえば、招待状が俺んとこに来なかったなあ。あんたの仕事と深い付き合いをしているつもりだったのに。すげえ、裏切られた気分」

「あ、いや。娘の結婚式でしたし…娘と付き合いのある人たちだけを…」

「ふうん。そう…の割にはあんたの取引先ばかりが教会の椅子に座ってたけど?」

「あ…パーティで娘が仲良くなった……」

俺はテーブルの角を蹴った

「陳腐な言い訳なんて、耳が腐るだけだ。ちっとはマシな言い訳はできねえのかよ。『契約破棄にされたくないので、結婚式には呼びたくても呼べませんでした』ってな」

謙蔵の頬に一筋の冷や汗が流れ落ちていく

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