わたしの、センセ
部屋に明かりをつけると、すぐにカーテンを閉めて、お情け程度にある小さなキッチンに向かった

小さなキッチンに似合う小さな冷蔵庫の中から缶ビールを一つ掴むと、立ったまま、一気に飲みはした

「ぷはぁー、生き返る! 僕は無事生還したぞ」

一人で明るい声出して、すぐにむなしくなった

馬鹿らしっ

飲み終えた空の缶をキッチンに置くと、畳の部屋に戻る

スーツを脱いで、クローゼットの中に入れると、大学時代から使っているジャージに着替えた

布団の上に座ると、僕は鞄の中から携帯を出す

不在着信2件と、メールが1件、届いていた

「真央からだ。珍しいなあ、あいつから電話だなんて」

僕は通話ボタンを押すと、耳にあてた

真央とは中学が同じだった

高校は別々だったけど、高校生になっても中学の奴らとツルんで遊んでいるうちに…恋人同士になってた

高校2年の夏に付き合い始めて、大学で遠距離恋愛ってやつになった

今も、遠距離なのは変わってない

真央は高校卒業後、すぐに就職した

化粧品会社の美容部員として、客の顔のエステとか、化粧品の販売とかやってるみたいだ

地元のデパートにある化粧品売り場に行けば、真央に会える

10回目のコールで、真央が電話に出た

電話の向こうから、電車が走り去っていく音が聞こえた

『もう帰ってきちゃった!』

「は?」

真央の第一声に、僕は首を傾げた

『え? メール、見てないの?』

「見てない」

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