わたしの、センセ
『仕事の研修で悠真んとこの近くに行ったから。研修が終わった後に会えないかな?って電話したの。全然、出ないから帰ってきちゃったよ』

「なんだ。そうだったんだ。ごめん。初出勤で携帯を気にしてなかった」

『そうだろうって思った。どうだった、女子高! 可愛い子はいた?』

「まだ生徒は来てないよ。生徒は明日から」

『ふうん。ねえ、悠真…どうしてこっちに戻ってこないの?』

「あー、なんとなく。こっちでスムーズに就職できちゃったし」

僕は壁に背中をつけて、寄りかかると、天井を見あげた

スムーズでもなかったけどね

就職活動で、いちいち地元に戻るのも面倒だったしなあ

大学の就職センターとコネのある学校で、試験受けに行くのに移動距離がそんなになくて、電車賃とかあんまかからないとこで…なんて考えていたから

試験のたびに地元に戻って…なんてやってたら、金がかかってしょうがない

バイトも就活をやるからって、辞めちゃってたし、あんま金を使うのは嫌だったんだよな

「ま、経済的理由ってところかな?」

『何、それ!』

真央がぷっと吹き出した

「地元っつってもさ。僕、帰る場所ないしね」

『悠真』

真央の悲しげな声が、僕の耳を刺激する

そんな声、出すなよ

両親は僕が中学のときに、交通事故で亡くなっていた

父方の祖母に預けられて、高校までは地元で過ごしてきた

高校3年で祖母も、他界し、テニスで怪我した僕は、スポーツ推薦での進学は無理となった

祖母の土地を売った金で、僕は地元から離れた都会で大学受験をした

見事、浪人することなく、大学生になれた
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