わたしの、センセ
-さくらside-

「センセ、今日が特別なら…わたしの下の名前を呼んで、キスしてください」

きっと断られる

松浦先生、きっとそういうのは好きじゃないと思うから

嫌われてもいい

センセの想いがわたしに向かないのなら、今日だけ…今日だけでいいから恋人同士みたいなことをしてみたい

センセに触れてみたい

我儘を言って、明日には先生に嫌われれば、きっと先生への気持ちが諦められる気がする

お願い

センセ、わたしにキスをして…そしてわたしを嫌いになってください

じゃないとわたしは、センセをどんどん好きになってしまう

底なし沼みたいに、底が見えない愛に溺れてしまう

センセの手が、ぎゅっとわたしの手を強く握りしめてきた

迷ってますか?

アパートには、きっとセンセの彼女さんが待ってるんですよね?

わたしのせいで、家を出て……楽しい時間をわたしが壊した

恋人同士の触れ合いをわたしが邪魔をした

ごめんなさい

我儘は今日で終わりしますから

手を握りしめたまま、センセの腰が浮いた

わたしの前でひざをつくと、センセが唇をそっと重ねてくれた

センセ、ごめんなさい

恋人を裏切るような真似をさせてしまって…ごめんなさい

センセの唇が離れると、「さくら」と心地よく響く声で名前を呼んでくれた

「…嬉しいです」

わたしの目から、どっと涙があふれ出した

もう…我儘は言いません

センセに好きって言わないから…困らせるようなことはもう…

センセが、長い指でわたしの涙を拭ってくれると、額にキスをしてくれた

え? センセ?

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