わたしの、センセ
「邪魔だ」

低い声が背後でしたかと思うと、僕は思い切りお尻を蹴られた

両手を床につけた僕は、顔面強打から逃れた

「俺の玄関をお前の血で汚すな」

「蹴っておいて、そりゃないんじゃない?」

僕は振り返ると、勇人さんの顔を見上げた

勇人さんは片方の唇だけ持ち上げて、満足そうに微笑んでいる

ああ…この人は最強のドSだった

他人を苛めて、幸せな顔をするんだもんなあ

ほんと、困っちゃうよ

別に僕はMじゃないなのに

「今日は藤城君はいないの?」

「あ?」

勇人さんがあからさまに嫌な顔をする

「藤城君がいれば、苛めの対象が彼に向くからさ…痛い思いしないっていうか」

「なんで、あいつが俺の家にいる必要があるんだ。あいつの名を聞くだけで、胸やけを起こす」

「あら? 今日は一段とご機嫌斜めで」

「お前のせいだろうが」

勇人さんは靴を脱ぐと、鞄を桃香ちゃんに渡してスタスタと家の奥に入る

「勇人さんの妹の莉子ちゃんと藤城君、入籍したんだって」

「ああ、だから…大事な妹を奪われて、怒ってるんだ」

納得

ずっと勇人さんは、嫁げば苦労するってわかってる藤城君を嫌ってたもんねえ

心なしか蹴る足にも、力が入ってたし

まあ、彼は運動神経が良いから、大怪我をするってほどじゃあなかったけどね

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