わたしの、センセ
「あれ?」

僕は左右に見える二つの部屋を見比べてから、桃香ちゃんの顔を見た

「もしかして寝室って別なの?」

「え? あ、うん」

僕の質問に桃香ちゃんが恥ずかしそうに頷いた

「へえ…勇人さん、怒らなかった?」

「勇人さんから言い出したから」

桃香ちゃんが少し寂しそうに微笑んだ

「え?」

意外だなあ

勇人さんのほうから寝室の別を提案するなんて……

桃香ちゃん以外の女性はいらないくらいの人が、どうしたんだろう

「仕事が大変みたいで。夜中でも関係なく電話がかかってくるからって。寝不足と疲労で、あたしが一回、家で倒れちゃった時があったの。勇人さんがすぐに帰ってきたから、料理中だったんだけど大惨事にはならなかったんだけどね。それ以来、ちょっとした家庭内別居って感じ」

桃香ちゃんが肩を竦めた

「えー…じゃあ…」

僕が口を開くなり、部屋から出てきた勇人さんの長い足がわき腹に入った

「お前こそ…彼女とどうしてる。捨てられたか?」

「真央? 別れたよ。別れたけど、一緒に暮らしてる」

「はあ?」

勇人さんが、理解できなさそうな顔をして僕を見る

僕は苦笑しながら、蹴られたわき腹を擦った

「親に不倫してんのがバレで、家を飛び出したんだって。仕事も辞めて、新しいバイト先で頑張ってるよ。でも…独りで暮らすほどの収入もなくて、アパートが見つからないって」

「あ? それでお前が面倒を見てるのか?」

「ちゃんと家賃は貰ってるよ。かなりお安めだけどね」

勇人さんが呆れた表情をして、息を吐き出していた


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