高岡充
おでん
「結花。夕飯食ってかない?」

高岡はもっと。
今の幸福を
じゅうぶんに味わっていたかった。

単に夕食を一人で食べるのが
今日はヤケに味気なく
感じたのもあった。

高岡の提案に
結花はあっけなく了解してくれ、

「電話借りていい?」

そう言って
高岡の家の黒電話を借りると
自宅へ
遅くなる、と電話をかけていた。


結花がうちの台所で
フライパンを返す。

その後ろ姿を
高岡は目に焼き付けていた。
結花は16才のくせに
家事が手慣れていた。


母親の朝食の分だと思ったが
多めに炊いてある白米も、

高岡が了解し
結花が全部チャーハンにしてくれた。

高岡たちは
お互いに楽しい夕食を
早めに済ませ

16才同士
それなりにまどろんでいた。

二回目のキスは
母親のチャーハンの味がした。



「ただいま~。」


するはずのない、
引き戸の開く音がする。

夢うつつな高岡の幻想は
とっさに現実へ引き戻される。

「ごめん、親父だ。」


抱き締めていた
結花の背中から
高岡は手をほどいた。


鼻血の出そうな
のぼせた頭を振り払い
高岡は玄関に走る。


親父が
鍋を持ったまま
玄関でつっ立っていた。


「…あがれば?」

少しの沈黙の後、
高岡が父親を促す。

「…女の子の靴があるから…お父さん、いつも急に来るからな。ごめんな。今日はこれ、お母さんに渡しに来ただけだから。じゃ、充。またね」

高岡は渡された鍋を持って
玄関先で父親を見送った。


「…みっちゃんのお父さん?」

高岡が鍋を持って部屋へ戻ると
はだけているハズの
結花のブラウスは

何事もなかった様に
元に戻されていた。


高岡は
なんの戸惑いもなく
結花に話しはじめた。


「結花…おでん、好き?」
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