ゲイな彼と札束
翌日。
「スッキリしない天気だね」
マモルは空を見上げて、残念そうに告げた。
「いいじゃん、涼しくて。日差しが強いとやる気なくす」
あたしがそう返すと、彼はそれもそうだと笑った。
あたしとマモルは今日、宣言通りデートを始めている。
「どこ行くの?」
「水族館。涼しそうでしょ」
確かに涼しそうではあるが、電車の中でくらい手を離せばいいのに。
熱い。
手を繋ぐって言ったのはあたしだけど、失敗だった。
手が熱いからではなく、本物の恋人同士でないあたしたちは、手こそ繋いでいるが、体の距離が微妙に離れる。
すぐそばにいるあのカップルのように、本来なら肩と肩が触れるほどの距離で手を繋ぐのが自然なのだ。
マモルとのこの距離が、切ない。
「平日だからきっと空いてるよね」
「どうだろ。東京ってどこ行っても人多いから」
確かにねと笑うマモルはいつもに増して優しくて、結局手は放せない。
素直に彼に寄り添うこともできない。
微妙な距離を保ったまま、恋人ごっこは続行する。
もしマモルがゲイでなければ、あたしを彼女にしてくれただろうか。
「俺、あれ見たいんだよね。赤いやつ」
「赤いやつじゃわかんねーし。何? 熱帯魚」
「そうそう。たぶん熱帯魚」
せっかく水族館に行くんだから、もっと大きい水中動物を目当てにすればいいのに。
イルカとか。