ゲイな彼と札束
目的の水族館に到着。
思った通り人が多い。
いや、想像以上に多い。
平日なのに、なんでだ。
そう文句を言いたくなったが、来館者の年齢層から、世間は今夏休みであることに気づかされた。
マモルだって夏休み中なのに、忘れていた。
中に入ると、そこは異世界だった。
小さい頃に一度だけ親父に連れていってもらったショボい水族館とは格が違う。
あたしは冷めているタイプだと自覚しているが、この時ばかりは感動した。
「海の中、歩いてるみたい……」
と呟いたあたしを見て、マモルは満足そうに微笑む。
「ねぇ、サエってさ」
そう聞こえてマモルに顔を向ける。
マモルはあたしを見つめたまま、しばらく何も言わない。
「何だよ」
しびれを切らして先につつくと、マモルは笑顔を崩さずに顔を水槽に向けた。
「いや、何でもない」
「あっそ」と返して繋いだ手を引き、あたしが回りたいように水槽を巡る。
マモルはそんなあたしについてくる。
ある時、ふとあたしたちの姿が水槽に反射した。
手を繋ぎ、寄り添い合い、微笑み合う。
本物のラブラブカップルに見えて、あたしは急に恥ずかしくなった。
いつの間にこれほど距離を詰めていたのだろう。