ゲイな彼と札束

人生で一度くらい、好きな人とこんなふうに歩いてみたかった。

あたしはいつの間にか夢を叶えていた。

だけどマモルはあたしをそういう意味で好きではない。

急に虚しくなって、あたしはスルリ手を放した。

「どうしたの?」

マモルは当然のように繋ぎ直そうとしたが、あたしがそれを止める。

「ちょっと、熱くなった」

「そう? 冷房効いてるけど」

首を傾げたマモルは、手を放しても半径30センチの距離を保つ。

なんか、思ってたのと違う。

昨日想像したデートより、ずっと楽しい。

宿とか金とか食べ物を狙った、媚びるためのデートしかしたことなかったから、普通のデートがこんなにも楽しいなんて知らなかった。

「ねぇサエ、見て」

「ん?」

マモルをどんどん好きになっていく感覚がする。

マモルが優しい表情をするから、愛されているような気分になる。

こいつを誘った女だって、この顔に勘違いさせられたに違いない。

順路に沿ってしばらく歩くと、とうとう熱帯魚のコーナーにたどり着いた。

「あ、いたいた!」

初めてマモルがあたしの先をいく。

「ほら、サエ」

手招きするマモルが目を輝かせたのは、赤くて小さな可愛らしい魚。

プレートを見るとカクレクマノミと書いてある。

映画で有名になったアレだ。

「実物もかわいいなぁ」

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