ゲイな彼と札束

子供のように見入るマモルに、またしても胸がキュンと苦しくなる。

またかよ。

だからガラじゃないんだっつーの。

今のあたしに普通の恋愛は無理だし、マモルはゲイだ。

自分を戒めてみても、気持ちは自分でコントロールできるものではない。

全身がこの男を求めて、脳が「もっと近寄れ。触れろ」と指示を出している。

理性で抗い、ちょうどいい距離を保つ。

チョコチョコ尾ひれを動かして舞うカクレクマノミは確かに可愛いし、それを見て笑うマモルはもっと可愛い。

「男のくせにはしゃぐなよ。気持ち悪いな」

と悪態づいてしまうのは、そんな気持ちをかき消してしまいたいからだ。

男のくせに男に恋をするマモル。

望みのない恋なんてしたくないのに。

いつかはと思っていたけれど、あたしが幸せになれる日は、もしかしたら来ないのかもしれない。

「サエだってはしゃいでたじゃん」

「はしゃいでねーし」

「サエ、笑ってたよ。あんな顔してるの、初めて見た」

「えっ……」

あんな顔ってどんな顔だよ。

一緒に暮らしてるんだから笑い顔くらい見たことあるだろうが。

「サエっていつも眉間にしわ寄せて不機嫌な顔してるけど、笑ったらやっぱり可愛いね」

あえて幸せだというなら、今が一番幸せかもしれない。

片想いだけど、そばにいる。

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