ゲイな彼と札束
マモルはあたしを可愛いと言う。
今までの人生、人からは怖いとかガラが悪いとばかり言われてきたのに。
マモルは一体あたしのどんな顔を見て可愛いなんて言うのだろう。
親にだって、可愛いと言われた記憶がないのに。
あたしは急に熱くなる顔をどうにもできなかった。
「こんなとこで、変なこと言うな!」
堪えきれなくなったあたしは走り出した。
大きな声を出したことで周りの視線を引き、余計に羞恥心が煽られる。
全力疾走したいところだが、人は多いし靴はヒールだ。
小走りで順路の先へ先へ。
マモルから逃げたかった。
そうしないと、あたしこそ変なことを言ってしまいそうだった。
嬉しくて、舞い上がって、口まで軽くなって。
好きだと言ってしまいそうだった。
「サエ!」
追いかけてきたマモルの手に捕まり、立ち止まる。
「来んなよ」
「あはは。そんなに照れんなって」
何も言ってないのに、逃げた理由がバレている。
「うるせーな」
笑うんじゃねーよ。
「照れた顔も可愛いよ」
「黙れよ」
ムカつく。
面白がってるとこが余計に。
人の気も知らないで。
マモルはあたしがもう逃げないように、しっかり手を握り直した。
腕時計を確認し、あっと声を上げる。
「もうすぐイルカとアシカのショーが始まるね。見る?」
あたしはマモルには敵わない。
「見る」