ゲイな彼と札束

「あ……」

二人の声がまた揃った。

信号は青になったが、男とあたしは歩き出さなかった。

「家、この辺なんですか?」

優しい声がそう尋ねてくる。

「いや……家とか、ないし」

あたしの返答に、捨て犬男は眉を寄せて首を傾げる。

「家がない?」

当然の反応だ。

家がないなんて、普通じゃない。

だけど紛れもない事実である。

この男、不幸そうだが悪いやつではなさそうだ。

可能ならこの男の部屋にしばらく泊めてもらおうという考えが浮かぶ。

全然タイプじゃないけど、こいつならむやみに女を殴ったりはしないだろう。

「さっき男の部屋から逃げてきた」

「逃げ……? ああ、そういうこと……か」

あたしの外見から察したようだ。

新しいアザや傷。

それらがいわゆるDVによるものだと。

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