ゲイな彼と札束
バスルーム
明け方、4時過ぎ。
あたしは一人こっそりマンションを出た。
台風は去ったが、湿って生暖かい空気が全身を包む。
できるだけ音を立てないように鍵を閉めると、胸と目頭がじわっと熱くなった。
微かに明るんだ東京の空。
汚れた空気と湿気で淀んだコンクリートジャングル。
マンションの外廊下から数秒だけ街並みを眺めて、あたしはエレベーターへと歩き出した。
荷物は小さなコーチのバッグと服屋の紙袋。
バッグには財布とタバコ、そして95万円の札束。
紙袋にはマモルが買ってくれた服や下着が詰め込んである。
赤い携帯はテーブルに置いてきた。
短い置手紙を挟んで、残り200万円の札束の上に。
手紙にはこう書いた。
「今までありがとう。大好きでした」
エレベーターでロビーに降り、郵便受けに鍵を入れ、歩き出す。
ここに帰ることは、もうない。