ゲイな彼と札束
ゴン! と、あたしがドアを蹴った音が響いた。
力を加減することが出来ず、足の指がビリビリ痛む。
とうとう見つかってしまった。
これからどうやって親父から逃げていいかわからなくなったあたしは、その場にうずくまり、恐怖と足の痛みに堪える。
「瀬戸さん、落ち着いて。我々はあなたを連れ戻すために来たわけではありません」
我々?
話しているのは一人だが、来ているのは複数らしい。
「嘘つけ! どうせ親父が捜索願いでも出したんだろ?」
「確かに捜索願いは出されていますが……」
「ほら、やっぱりそうじゃねーか!」
「我々に連れ戻すことはできませんから、そこはご安心ください。今日お伺いしたのは、義則さんご本人についてであって、あなたの捜索とは別の件です」
別の件?
何だよ、それ。
親父、何かやらかしたのかよ。
「別の件って?」
あたしはそう聞いて穴から声の主を覗いた。
男が二人。若いのとオッサン。
どちらも警察らしい制服を身に着けている。
喋っているのは、オッサンのほうだった。
「ここではお話できません。中に入れていただけませんか」
「……わかった」
あたしは覚悟を決め、ドアを開くことにした。