ゲイな彼と札束

言葉の意味があたしに浸透するまでには、しばらくタイムラグがあった。

「なくなった?」

なくなったって何だよ。

意味わかんない。

親父は物じゃないっつーの。

「一応、交通事故……ということになっています」

「は?」

交通事故というキーワードで初めて「なくなった」が「亡くなった」、すなわち「死んだ」という意味だったと理解する。

「親父が……死んだ?」

「はい」

いつ? どこで? どうして?

事故って……?

頭の中が様々な憶測でいっぱいになる。

滅多に使わない脳ミソをフル回転しているからか、手足は冷たいのに頭だけ熱くなってきた。

「いつですか……それ」

「三年前の夏です」

「そんなに前なんですか?」

あたしが出て行って数ヶ月という頃だ。

必死に逃げてきたあたしは、それを知る術もないまま東京で暮らしていた。

オッサン警官こと山内は、放心するあたしに、優しい口調でわかっていることを教えてくれた。




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