ゲイな彼と札束
山内は、住所変更のやり方がどうとか未成年だから保護者がどうとか、遺品がどうとかあたしの母親がどうとか、大事な話をしてくれたが、全く頭に入らない。
放心状態から抜け出せないあたしを見かねたオッサンは名刺を差し出して、
「相談にはいつでも乗りますから」
と言って、若いのと二人、台風の中帰っていった。
再び一人になったあたしは、しんとした部屋が嫌でテレビのスイッチをオン。
スピーカーからガヤガヤと音が流れ、少し遅れて映像が映る。
「親父が死んだ……?」
いまいち実感が湧かない。
遺体を見たわけではないし、葬式に出たわけでもない。
死んでから時間が経ちすぎているし、想像もできない。
だけどわざわざ警察が話しに来たくらいだから、嘘ではないはず。
あたしは、もう、二度と。
もう二度と親父に会うことはないし、殴られることもない。
しゃがれた声で「サエ」と呼ばれることもないし、怒鳴られることもない。
あたしを必死に探して、死んだんだから。