ゲイな彼と札束
ろくでもない親父だった。
母親はあたしが生まれて2年で家を出たらしい。
親父のやつ、どうせ母親のことも殴ったんだ。
あんな男が旦那じゃあ、幸せになんかなれるわけがない。
だからって、母親のくせに、まだ幼いあたしを捨てやがって。
親父はあたしを捨てずに育ててくれた分、母親よりはマシだ。
あたしはいらない子だと思っていた。
親父だって、厄介なあたしのことをずっと疎ましがっていると。
だから殴られるのだと。
家出をするのに抵抗がなかったのは、それがお互いのためだと、心底思っていたからだ。
死人は、ズルい。
中学に上がったとき、制服を着たあたしを見て、
「おう、意外と似合うやんか」
と笑ったこと。
中3の冬、全く勉強しないあたしに、
「お前、高校は行かんでいいんか?」
と心配したこと。
あたしの誕生日には、小さいケーキを買ってきてくれたこと。
都合よくそういう記憶ばかりが蘇りやがる。
きっと親父は、親父なりに、あたしのことを育んでいた。
父親として優秀ではなかったかもしれないけど、親父なりに、父親をやっていた。
悪いことばっかりするあたしは、さぞかし育てにくかっただろう。
手を焼かせてばかりで、殴る以外、方法がなかったのかもしれない。
それでも、あたしを娘として大切に思ってくれていた。
親父を壊したのはあたしだ。
殺したのもあたしだ。
今さら気付いたって、もう遅いのに。