ゲイな彼と札束

親父はあたしにとって唯一の家族だ。

ふと腰にあるタバコの跡に触れてみた。

押しつけられた痛みではなく、テレビを見ながらタバコをふかす親父の横顔が頭に浮かぶ。

ちゃぶ台には銀色の安っぽい灰皿と、白地に赤い丸のラッキーストライク。

あたしがラッキーストライクを吸うのは、親父のタバコでタバコを覚えたからだ。

じわり涙が溢れた。

中学時代は「あんなクソ親父なんて、いなくなってしまえ」と思っていたけれど。

本当にいなくなってんじゃねーよ……。

あたしは一人静かにしくしく泣いた。

やりきれない思いをたまにソファーにぶつけながら、親父を思って泣いた。

自分の人生で、こんな時が来るなんて思いもしていなかった。

あたしは本当に、一人になってしまったのだ。

親父がいないとわかった今、あたしが東京にいる意味は、マモル以外にない。

だからあたしは、ひとつ賭けをしてみることにした。

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