ゲイな彼と札束

「自分がゲイだとわかった時、どう思った?」

あたしの腹部に添えた手に、少しだけ力が入る。

「怖くなった」

マモルはそう告げ、あたしの肩に頭を乗せた。

「ああ、自分は普通じゃないんだって、愕然とした。いつか本当に好きな女の子ができて、結婚して、子供ができて……って考えてたからさ。そんな普通の人生を、俺はもう送れないんだって、絶望的な気持ちになった」

こういう“普通”は、一種のマインドコントロールだと思う。

あたしには幼い頃から母親がいなかったから、“普通”でないことで周囲から嫌な目で見られてきたし、“普通”に対する憧れが、今でもある。

「でも俺が好きなのは男で、結婚も子供も無理で。その前に、うわ、自分キモッとか思ったりして」

背中一面にマモルが触れる感覚がする。

ギュッと腕に力がこもる。

「好きになる人はみんなノンケだし」

「失恋ばっかりか。辛かったな」

世の中、そうそうマイノリティに出会う機会など転がっていない。

いわゆる塩顔と呼ばれる、優しい顔。

華奢だけどしなやかな筋肉のある、女好きのする体。

素直でお人好しで、真面目な性格。

こんなにも魅力的な男なのに。

あたしのタイプではなかったけど、今ではすっかり虜にされている。

「大学に入ってからは、そういう出会いもいくらかあったんだけどね。でもなかなか上手くいかなくて。初めてちゃんと付き合えた男が、シンさんだった」

その初めてが売れっ子の芸能人なんだから、スゴい。

「ジョージが初めての男?」

「体という意味では違うけど、恋人としてはね」

マモルの初恋は、全てが劇的だ。

相手は芸能人。

そのためだけにマンションまで購入するスケールのデカさ。

それなのに、バレたから別れさせられるとか、女との浮気とか、結婚とか、妊娠とか。

代償に掴みかけていた夢まで奪われて。

学生とはいえ、他人の金で生活しているなんて男として恥ずかしくないのか。

と、自分のことを棚にあげて思っていたけれど。

もっと奪ってやればよかったのに。

今はそう思っている。

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