ゲイな彼と札束
再び信号が青になり、あたしたちは歩き出す。
「俺、加藤(かとう)マモルって言います。お名前は?」
「瀬戸(せと)サエ」
「サエさん」
「サエでいいよ」
「サエ……。じゃあ、俺もマモルで」
柔らかい表情で微笑んだ捨て犬男ことマモル。
白地にピンクの柄が入ったTシャツに、細身のジーパンとスニーカーという夏らしいラフな服装だ。
サラサラの黒髪で、華奢な体つき。
ヒールの靴で並ぶと目線が同じくらい。
色白で細いタレ目に薄い唇。
こんな好青年タイプの人間と関わるのは初めてだ。
なんか、慣れない。
今まで関わってきた男たちは、ハッキリ言ってしまえばチンピラのような野郎ばかりだった。
実際にチンピラだったヤツも半分くらい。
強そうで、悪そう。
あたしはそういう男がタイプらしい。
まあ、どれもハズレだったわけだが。
いかにも“真面目に生きてきました”ってヤツは、あたしとは絶対に合わないし、あたしに嫌悪や好奇心は示しても、決して好意は示さない。